■DATE瓜科国779
歌姫の塔※この村は、あき原作の「歌姫」という作品を元に作られましたが、原作の登場人物等とは一切係わりありません※
2011/10/31〜2011/11/14
その村には、「歌姫」がおりました。
歌姫とは、王都を守護する女神のような存在。
その声には不浄を祓う不思議な力があり、国の安泰の為、毎夜歌う事を義務付けられていたのです。
その声は森を抜け、遠く離れた王都にも届き、国はそれによって加護を受けているのでした。
歌姫の居る村は、その血を絶やさぬようにと、国から命を受けています。
その報奨として一部の税が軽減される等、恩恵も大きいのです。
ただし、命に背いた場合――つまり、歌姫が何らかの理由により居なくなってしまった場合は、村全体の責任として罰を受けることと定められていました。
村人は、村(自分達)を守るために、歌姫を監視しなければなりません。
歌姫は、生活の場を与えられる代わりに、村の外へ出る事は許されない。
「依存し合う関係」それがこの村のルールであり、両者の壁でもあった。
***
高台にある塔から眺めることの出来る王都は、歌姫は行く事が叶わぬ場所。
それが闇夜に染まってゆくのを見ながら、歌姫シルヴィアは独り呟く。
「会う事の無い王の為、私はここで歌い続ける…。
ここでの生活は不自由ではないけど、自由でもない。
私は村人に、飼われているのね。
その事に、ようやく気付けたわ―――。」
先代の歌姫―母親―が遺したブローチを手に、今宵も王都へ向けて歌を捧げる。
その歌声に、悲哀が混ざるのに気付く者は居るだろうか。
***
とある日の事。
村長の元へと、焦燥感を露わにした青年が姿を見せた。
「夜分遅くにすみません。
実は…良くない噂を耳にしまして。
誰かが、歌姫を村の外へ逃がそうとしている、と。」
周りを気遣う様に、小声でそう伝える。そして続く、ひそひそ話。
「2日ほど前に、山道で話し合う数名が居るのを目撃したとの情報が。
問い詰めようとしたら、木々に紛れて見失ってしまったようで、
計画を立てている犯人が、誰かまでは…。」
グレンの話が本当ならば、村側として対策を講じる必要がある。
デマだったとしても、用心をするに越した事は無い。
大事が起こって、国に罰せられるのだけは、何としても避けなければ――。
そう考えた村長は、計画が立てられていたという夜に、アリバイが無かった村人へ嫌疑をかける。
「話し合い」をさせ、犯人を村から追い出すために。
***
日が沈みかける前の事。歌姫の所へ尋ねる者が居た。
ドア越しに話しかけて来るのは、聞き覚えのある声。
「……その声は…。
村の、外……?この村を捨てれたら、どんなに良いか。」
村を出たいと思っていた。歌姫という重責から、逃れたかった。
甘言ではと疑いつつも、その言葉に希望を抱いてしまった。
「…もう少し、考えさせて。」
そう言って会話を切るものの、迷いなどあるはずが無い。
―――刻限は、明日の夜。
こうして、裏切り者の手引きにより、歌姫は塔から姿を消した。